インドネシアは、人口2億7千万人を越え、ASEANの中で最大の人口とGDPの規模を持つ大国です。2019年GDPでは111兆ドルと世界16位となっており、一人あたりの国内所得(購買力平価)で見ると、12,220ドルと下位中所得国の仲間入りとなりました。2030年には人口が3億人を超えるとも言われ、都市人口が増え続けています。
2035年には、ジャカルタ・バンドン地域に7,600万人、人口の27%が住むと計算されています。これ以上の人口を抱えるには、雇用創出とインフラ整備が不可欠であり、人口集中への回避も議論されています。
首都ジャカルタは、下記の問題を抱えています。
その他、次いつくるかわからない地震による都市崩壊の恐れなどが懸念されています。
インドネシア政府は、2019年4月末に首都をジャカルタから移転する計画を決定し、2019年8月にカリマンタン島の東カリマンタン州の北プナジャム・パセル・ウタラ(PPU)県とクタイ・カルタネガラ(クカル)県(面積:256,000ヘクタール)に移転を発表しています。
ジャカルタから1,300Km程離れた場所で、ジャカルタから飛行機で約2時間かかります。
移転建設費用及び資金は466.98兆ルピア(約3兆5,000億円)を見込んでおり、19%は国家予算から、残りは民間投資を想定しています。ソフトバンクグループの孫会長も審議会委員として任命されています。
2020年12月に国家開発企画庁(BAPPENAS)がマスタープランとその詳細計画を完成させました。新首都のコンセプトは、政治機能に特化し、経済とは切り離した自然豊かなフォレストシティを目指しています。
首都移転を発表して以来、首都移転地域では人口が1万人も増えたそうです。今後も都市化に伴い、人口が急増することが予想されています。
首都移転が決まると、ジャカルタにいる約100万人の公務員が新首都に引っ越すことになり、ロジスティクスの面で混乱が起き、市民生活に支障が出ると予想されています。ジャカルタ勤務の公務員はカリマンタンへの引っ越しを本気で嫌がっているようです。
移転する東カリマンタン州は、以前は熱帯雨林に覆われた地域でしたが、違法な森林伐採で、元々あった森の多くが失われています。野生のオランウータンが生息する森林を破壊する事や、鉱業、パーム油産業による公害の悪化も進んでいるため、さらなる環境破壊が進むと環境保護団体が懸念しています。
首都移転予定地には現在、産業用、特に製紙に使う木のプランテーションなどが行われており、ジャルム・グループやシナルマス・グループなどのいわゆるインドネシアの経済を牛耳っているといわれている中華系のコングロマリット(複合企業)や政治家が既にほとんどの土地を使用しているというのです。ジャカルタ北部の埋め立て地をめぐる問題から利益を得られなかった代わりに、彼らの息のかかった地域に移転を決めたのではないかという話すら上っています。
格差是正には首都移転以外に対策はないのか、移転先がこの場所で良いのか、どのように巨額資金を調達するのか、さまざまな声が上がっているのは確かです。
大統領によって発表されたとはいえ、先行き不透明感が残る中で、国民の支持をまずは取り付ける必要があります。
新首都は、政治の中心となっても、経済は引き続きジャカルタが中心となります。政治の機能は移転できても、企業や人々の生活は引き続きジャカルタに残ります。首都移転がジャカルタに起こりつつある数々の問題の解決策とはならないため、引き続き危険な状態が続く事になります。ジャカルタの街を持続させる施策にも今後多くの予算が必要になるでしょう。ですが、天災や気候変動への対応策は早めに実施した方が命も守れるでしょう。
首都移転計画ですが、今後様々な問題がでてくる事が予想されますが、インドネシア発展のための首都移転の動向が注目されそうです。