インドネシアの南東スラウェシ州に位置する歴史的な街、バウバウ。かつてブトゥン王国の中心地として栄えたこの場所は、現在もその歴史の重みと自然の美しさが融合する特別な空間として訪れる人々を魅了しています。今回、マカッサルからの旅で初めて訪れることとなったバウバウでは、歴史ある要塞「ベンテン」がハイライトとなりました。ベンテンの壮大な城壁から見る夕陽は、かつてこの地を守り抜いた人々の物語を映し出すかのように美しく、静寂の中で時を超えた瞬間に心を奪われました。バウバウの街と要塞が持つ歴史的背景に触れながら、夕陽に染まる壮大な風景を目の当たりにました。
マカッサルからのフライトは予定より遅れましたが、無事にバウバウに到着しました。バウバウの空港に降り立ったのは17時、日没が迫る時間帯です。到着したばかりのこの街を見渡しながら、まずはホテルへ向かう予定でしたが、歴史的に有名なベンテン(要塞)での夕陽が美しいとのことで、急遽その美しい光景を楽しむために立ち寄ることにしました。限られた滞在時間の中で、ベンテンの夕陽を眺めることは、この街の歴史を感じる絶好の機会です。夕方の柔らかな光に照らされたベンテンを訪れることは、バウバウの旅の初日を飾るにふさわしい特別な時間となりそうです。
ベンテンは16世紀に築かれたウォリオ王国の要塞で、その圧倒的な規模と歴史的な重要性から、地元の人々のみならず訪れる観光客にも感銘を与え続けています。日没の時間帯は特に人気で、夕陽が城壁に映える姿は忘れられない景色を作り出します。
バウバウは地方都市であるため、観光客向けのインフラはまだ十分には整っていません。マカッサルのようにGRABやゴジェックといったオンラインタクシーのサービスは展開されておらず、移動手段はかなり限られています。通常、観光客は事前に手配した白タクや、空港で待機しているローカルのタクシーに依存する形になります。空港での交渉は値段次第ですが、経験上、タクシードライバーとの交渉は慣れていないと少し煩雑に感じるかもしれません。私は事前に手配していた白タクを利用しましたが、料金は10万ルピア(約900円)が相場となっており、空港から市内まではそれほど距離がないにもかかわらず、やや高めの料金設定です。
それでも、この地方都市ではタクシーの需要と供給が少ないため、事前予約は非常に役立ちます。私のドライバーは非常に親切で、途中でベンテンに寄ってくれるというありがたい提案をしてくれました。限られた時間の中で、地元の情報を持ったドライバーの協力はとても心強いです。道中、街並みや自然の景色を楽しみながら、少しずつベンテンの要塞が見えてきました。
バウバウの街を見下ろす小高い丘の上に広がる「ベンテン要塞」。その姿は圧倒的であり、近づくにつれてその壮大さが次第に明らかになっていきます。要塞の壁は珊瑚岩でできており、石灰岩質の白い壁が青空や夕陽に映え、歴史と自然が融合した美しい光景を生み出しています。この要塞は、ウォリオ王国時代に築かれ、16世紀のイスラム教スルタン制の時代には、戦略的な拠点として繁栄を極めました。その後、現在に至るまで、この要塞はバウバウのシンボルとして地域の誇りであり続けています。
要塞自体はギネス世界記録にも認定されるほど広大で、バウバウ市内を一望できるその立地の素晴らしさは、まさにウォリオ王国の栄華を物語っています。
丘の上から見渡す街の風景は、過去と現在が交差するような独特の感覚を与えます。また、要塞内部には、かつてスルタンが住んでいた宮殿や、高床式家屋が点在しています。これらの建物は今でも保存されており、ウォリオ王国時代の建築様式を伝える重要な遺産です。
要塞の城壁に登ると、目の前に広がるのは広大な海とムナ島への海峡。かつてこの地を行き交った船団や商人たちの姿が想像され、まるで時代を遡って歴史の一端に触れているかのような気分にさせてくれます。
ベンテン要塞から見下ろすバウバウの街並みを眺めながら、この地の歴史に思いを馳せました。バウバウは、13世紀末にマレー人の商人たちが上陸したことからその歴史が始まります。彼らは4つのグループに分かれ、その中の一部が現在のブトゥン島の王国を築きました。後にイスラム教がこの地に伝わると、16世紀にはウォリオ王国がスルタン制へと移行し、ここバウバウはその政治的、文化的中心地として栄えました。
ウォリオ王国は海上交易の要衝としても重要な役割を果たし、この要塞はその防衛拠点としての役割を担っていました。
ベンテンは、地理的に高台に位置しているため、外敵の侵入を防ぐ上で非常に有利な場所に築かれたことがよく分かります。
現在は静かな港町へと変わりつつあるバウバウですが、この要塞に立つと、かつての賑やかな交易の様子や、スルタンとその家臣たちがこの地で暮らしていた光景が思い浮かんできます。
バウバウは、南東スラウェシ州が成立した際に一時は州都候補にもなりましたが、最終的にはケンダリが州都となったことで、現在は比較的静かな街となっています。しかし、2001年にブトゥン県から分離して市として独立したことで、再び地域の中心として注目を集めています。
そして、ついにその瞬間が訪れました。ベンテンの城壁に立ち、目の前に広がる大自然と夕陽の美しさに息を呑みました。日が沈むにつれて、空と海は赤く染まり、静かに沈みゆく太陽が、この歴史的な要塞と共鳴するかのような光景を作り出していました。かつて、この場所からスルタンや人々が同じようにこの夕陽を見ていたのかと思うと、感慨深いものがあります。
バウバウは、かつて南東スラウェシ州の経済的・文化的な中心地として栄えていましたが、現在は観光地として発展する可能性を秘めた静かな港町です。しかし、このベンテンの城壁に立って見る夕陽は、歴史の重みと自然の壮大さを同時に感じることができる、非常に特別な体験です。海と空が織りなすこの絶景を見ながら、当時の人々の営みを想像し、今と昔が交錯する瞬間を感じ取りました。
滞在は短いものの、この美しい夕陽と歴史の街でのひと時は、私の心に深く刻まれました。バウバウという街が持つ歴史の重みと、その中で生きた人々の物語を感じる旅の始まりとして、このベンテンでの夕陽の光景は忘れられない思い出となりました。