バウバウで過ごす最後の朝がやってきました。4階のシービューの部屋からどんな景色が広がっているのか楽しみにしていたので、早朝に目覚めてすぐにカーテンを開けました。すると、夜の間は見えなかった穏やかな海が目の前に広がり、向こう側にはニュナ島が見えます。この静けさの中で太陽が昇ろうとしているのを感じ、思わず慌てて着替えをしてホテルの外へ飛び出しました。
夜には賑やかだったナイトマーケットも、今やその姿は跡形もなく、整然とした駐車場だけが広がっていました。まるで昨夜の賑わいが幻だったかのようです。マーケットが姿を消し、静寂が戻ったこの場所は、まるで別世界のように感じられます。そんなことを思いながら、昨夜コーヒーを飲んだ海岸沿いに向かうと、目の前にはエメラルドグリーンの美しい海が広がっていました。
その海の色は、朝の柔らかな光を反射し、きらめいています。私は堤防に腰を下ろし、しばらくの間、ゆっくりと空がオレンジ色に染まっていく様子を眺めていました。そしてついに、水平線の向こうから太陽が顔を出し始め、その瞬間、海がさらに輝きを増しました。気温は21℃、空気はひんやりとしていて、心地よい風が吹き抜けていきます。この静かな朝の風景を眺めていると、時がゆっくりと流れているように感じられ、久しぶりに心が癒される瞬間でした。
朝日を見た後、そのまま海沿いを散歩しようと思い、カマリビーチ(Pantai Kamali)へと足を運びました。ここにはバウバウの象徴とも言える大きなドラゴン像がそびえ立っています。このドラゴン像は、単なる観光名所ではなく、ブトゥン島の深い歴史と結びついています。伝説によると、ブトゥン島の最初の支配者が中国の皇帝や中国系の血を引く人物であったとされ、その象徴としてドラゴンがこの地に根付いたといわれています。
ドラゴンは、中国文化とこの地域のつながりを表す重要なシンボルであり、力と勇気を象徴する存在です。ブトゥン王国時代、このドラゴン像は地域の繁栄と強さの象徴として、多くの人々に誇りを与えました。緑で装飾されたこの像は、見る者に圧倒的な存在感を与え、観光客だけでなく地元の住民にとっても重要なランドマークとなっています。多くの地元住民が、家族と共にこのビーチを訪れ、ドラゴン像の前で写真を撮ったり、散歩を楽しんでいる様子が見られました。こうした風景を目にすると、ドラゴンが単に過去の栄光を象徴するだけでなく、現在のバウバウの人々にとっても大切な存在であることがわかります。
カマリビーチで散歩を終え、ホテルに戻って朝食をとることにしました。
カリスタビーチホテルの朝食はシンプルですが、地元の風味が詰まった料理が提供されています。
この日の朝食は、ミーゴレン、アヤムバカール、テンペなど、定番料理が並んでいました。品数こそ多くはありませんが、一品一品が丁寧に作られており、特にアヤムバカール(鶏の炭火焼き)の香ばしさには感動しました。味付けも絶妙で、程よい辛さが朝から食欲をそそります。
朝食はホテルのレストランで、海を眺めながらゆっくりと楽しむことができました。目の前には静かな海が広がり、遠くには漁船が穏やかに進んでいく姿が見えます。バウバウの朝の光景を楽しみながら、静かなひと時を過ごすことができました。
食事を終え、いよいよ出発の準備です。9時にはタクシーが迎えに来る予定で、次の目的地であるバナブンギ港(Pelabuhan Banabungi)へと向かいます。この港からはワカトビ諸島のワンギワンギ島行きの高速船に乗るため、少し名残惜しい気持ちを抱きながら、バウバウを後にする準備を整えました。
9時になると、ホテルの前に手配していたタクシーが到着しました。バナブンギ港までの道のりは約1時間半ほどで、途中、他の乗客も乗り込んでくる乗り合いタクシーでした。ドライバーは地元の人で、親しみやすい雰囲気で、島内の景色や歴史についても色々と教えてくれました。
ブトゥン島の道路は非常に整備されており、車は快適に進んでいきます。特に驚いたのは、島がアスファルトを自給できる地域であるため、道路の整備が非常に進んでいるという点です。地方の離島にも関わらず、舗装された滑らかな道路は揺れもなく、非常に快適でした。道中、小さな村々を通り過ぎ、緑豊かな景色を楽しむことができました。
途中、運転手からは、この島が交易の中心として栄えた歴史や、現在の経済状況についても教えてもらい、興味深い話をたくさん聞くことができました。道中、軽いアップダウンを越えながら、ブトゥン島の東側へと向かいます。青々とした山々が背景に広がり、豊かな自然に囲まれた景色は、まさに離島らしい風情を感じさせました。
バナブンギ港に到着すると、港は既に多くの人々で賑わっていました。ワンギワンギ島行きの高速船が出発を控えており、船着き場には乗客が集まり、活気に満ちています。この港は、ワカトビ諸島への主要な玄関口であり、地元の人々や観光客が利用する重要な交通拠点です。
この日は高速船だけでなく、国営のペルニの貨物船も到着していたため、さらに賑やかな雰囲気が漂っていました。私たちはまず、高速船のチケットを購入するため、チケット売り場へ向かいました。1日1便しか運航されていないこの高速船のチケットは、VIPが247,000ルピア、エコノミーが166,000ルピアと少し高めですが、事前予約なしでも当日購入で十分間に合うようでした。
待合所でしばらく時間を過ごしていると、11時15分にワンギワンギ島からの船が到着し、多くの乗客が船から降りてきました。
私たちが乗ってきた乗り合いタクシーも、この到着した乗客たちを再びバウバウ市内へと送り返すようです。私たちも荷物をまとめ、いよいよ次の目的地へ向かうために高速船に乗船します。
バウバウで過ごした穏やかな朝、そして歴史を感じる街の景色を心に刻みながら、次の目的地、ワカトビ諸島への旅が始まります。