ボコリ島からの帰り道、Grabが使えない!? Wi-Fiにはつながっているのに、配車アプリが利用圏外で車が呼べず、焦る私。そんなピンチを救ってくれたのは、船着き場にあった売店のおばちゃんでした。地方旅ならではの“想定外”と、人のやさしさとの出会い。夕暮れの風を浴びながらバイクで市内へ戻った、小さくも忘れられない体験。この出来事が、旅の本当の魅力を教えてくれました。
週末を過ごしたケンダリ沖のボコリ島。白砂のビーチにヤシの木、静かな入り江。海に足を浸しながら魚の群れを眺めていると、心がふっと軽くなるような穏やかな時間が流れていきました。
あとは船で戻って、ホテルに帰るだけ――そう思っていたのです。
行きはGrabを使い、市内のスイスベルホテルからボコリ村の船着き場まで快適に移動。「ネットさえあれば、どこでも車が呼べる」――都市生活で当たり前になっていたその感覚が、まさかここで覆されるとは思いもしませんでした。
ボートでボコリ村の船着き場に戻り、売店のベンチでひと息つきながらGrabアプリを立ち上げました。
幸い近くの売店が提供するWi-Fiには問題なく接続できていて、SNSやメッセージのやりとりも普通に可能な状態です。
「よし、ホテルまで呼ぼう」とアプリを開くと、地図は表示されるのに、車のアイコンがどこにも現れません。何度リロードしても状況は変わらず、ついに「このエリアでは現在、配車サービスをご利用いただけません」というメッセージが表示されました。
市内からたった30分ほどの距離なのに、まさかGrabが使えないとは。完全に油断していました。
ネットが使える=アプリも使えると思い込んでいた自分の“都市の常識”が、地方では通用しないことを痛感させられました。
困り果ててスマホを見つめていた私に、「どうしたの?」と優しく声をかけてくれたのは、近くの売店でバクソ(ミートボールスープ)を売っていたおばちゃんでした。事情を伝えると、「ああ、それなら大丈夫」と、すぐに笑顔で応じてくれました。
彼女は慣れた手つきで電話をかけ、ローカルのOjek(バイクタクシー)のドライバーを呼んでくれたのです。
「スイスベルホテルまでRp50,000で行けるって」と、すぐに交渉まで済ませてくれたおばちゃん。その親切さに、心の底から感謝の気持ちが込み上げました。
バイクの後部座席にまたがって出発。時刻はすでに夕方、陽は傾き始め、日中の強い日差しも和らいでいました。
夕暮れ前の涼しい風が心地よく、新しくできた幹線道路は開放感があり、最高です。
Grabの車では決して味わえない、五感で感じる移動体験。風、音、におい、すべてが旅の一部となって身体に刻まれていきます。
約30分ほどでスイスベルホテルに無事到着。風を浴びながら走るバイク旅は、ちょっとした冒険のようでもあり、思いがけず印象深い時間となりました。
アプリに頼りすぎず、人とのつながりを忘れずに
今回の出来事で、改めて思い知らされたのは、「スマホが万能ではない」という当たり前のことでした。
Wi-Fiがあっても、配車アプリが使えない場所は意外と多い。Googleマップがあっても、実際に動く交通手段がなければ意味がない。
でも、そんなときに頼りになるのが“人の力”です。
売店のおばちゃんが助けてくれなければ、私はきっと途方に暮れていたでしょう。
テクノロジーだけでは旅は成り立たない。人とのつながりがあってこそ、旅が安心で温かなものになる、そんなことを改めて実感したひとときでした。
もちろん、最初から車をチャーターしておけば、何も困ることはなかったかもしれません。
でも、こうした予定外の出来事や、思いがけない人との出会いがあるからこそ、旅は深く、そして豊かになるのだと思います。
小さなハプニングも、笑って振り返れば心に残る大切な思い出。
完璧な計画に頼るよりも、少しの余白を残しておくことが、旅の醍醐味なのかもしれません。
こうした体験の一つひとつが、人生の彩りを増してくれる、今回の旅は、そんなことを静かに教えてくれました。