私は知らない土地に行くと、まずは高いところに登ります。
そして、初めて訪れる人を案内する時も、高いところを案内します。
インドネシア・マカッサルで高いところの建物というと20階建て位の外資系ホテルが多いのですが、その屋上には大抵レストランやバーがあります。
初めてマカッサルに訪問する人を案内する場合、ホテルの屋上のレストランに連れていきます。
そこで何をしているのかいうと、この方向には何があるのか、これからあっちの方に行ってみようと計画を立てます。
マカッサルですと海の方向はこちらで、ここに港があり、建物の作りや路地など街の造りの全貌を見渡しています。
つまり俯瞰ですね。
そうすると、知らない土地でも方角がわかるようになっているので、道に迷いにくいというのもあります。これは旅から学んだことです。
そうして、初めて来訪した人が、知らない土地のマカッサルでも何かがわかったような気にさせるという心理です。
なぜ高いところに案内するのかと尋ねられ、私は高いところが好きだと話すとその理由を訊かれることが多かったので、最近は、高いところが「好きな理由」を考えておくようにしています。
高いところを楽しめる人は、興奮状態のドーパミンが脳から放出されます。
高い所から落ちるアトラクションに対しても、『怖い』という評判が高いほどワクワクできます。高い所に行くのは価値があることであり、『価値があると思えることは何だろう?』と考えたとき、
高い所は空気が綺麗だ 高い所は涼しくて気持ちがいい
などはすぐに感覚として出る言葉ですが、もう少し深堀して考えてみたいと思います。
高いところというのは、命の危険を常に感じているので、じぶんの命を守るために安全な場所である地上では眠っていた様々な機能が、起きる感覚があるということ。
人類がまだ危険がいっぱいの環境で生きていた時代にあった能力が目覚めるような感覚がよみがえるのでしょう。
飛行機に乗るといつも思うのですが、着陸の瞬間、地上500〜600mあたりを飛んでいる時、妙に世間を俯瞰して感じられて、いろいろなことを冷静に客観的に考えられる気がします。
なんとなく、この地に降り立って新しい何かが起きるワクワク感といった高揚感が増す瞬間なのでしょう。昔の修行僧みたいな人たちが山に籠ることでやろうとした感覚に近いものを味わえるのかもしれません。
東京スカイツリーや大阪の通天閣などその都市を代表する塔や、主な高層ビルの最上階には展望室があり、いつもたくさんの人々が行列を作ってエレベーターの順番待ちをしています。
有料施設も多いから、その場合、展望室から望む風景は有料の風景という事になります。
また、観光地には、たいてい展望施設や展望のポイントがあります。
やはり人々は高い場所に登って展望するのが好きなようです。
分譲マンションでは、通常、間取りが同じでも上層階ほど価格が高く、これは展望をその根拠のひとつとする場合が多いですね。
つまり現代社会において展望は経済的価値をともなうものでもあります。
そして、だれもが、展望台や山の頂から見晴るかす風景を眺めて感動した経験があるでしょう。
小高い場所に登り、眼下に広がる自分の世界をじっくり眺めたいという気持ちは、人間の基本的な本能の1つのようであるようです。
動物や狩猟時代のヒトにとって、自らの姿を隠しつつ、周囲を見渡せる環境は生存していくために有利なポジショニングでありポジティブなものであったと類推できます。
自分たちの住む土地をよく知り、愛するためにも、また高いところに登って自分たちの棲む土地を見おろしたいという人間の本性的ともいえる欲求を満たすためにも、だれもが気軽に登れる場所を町や村ごとに身近につくりだしていく必要があります。
高いところに登って展望するという、サルにも共通すると予想される遺伝子レベルの本能的な満足感を味わうのでしょう。
現代の私たちがたとえば高層ビルの最上階から風景を展望したときに得られる感動の中には、ヒトへの進化の過程で継承した高いところに登って展望するという本能的で動物的な衝動と、近代という時代の中で獲得した、風景の体験に関わる感覚が混ざっているのだと推測できます。
ヒトが展望を本能的に好むということは、科学的にはいまだ立証されてはいないと思いますが、おそらく事実なのではないでしょうか。
また、どのような風景にも、展望的な要素は多かれ少なかれ含まれる場合が多いから、それが多くの風景の体験になんらかのポジティブな影響をもたらす可能性があるといえるでしょう。
『人を見下ろす』ということばがありますが、高いところにいると、天下をとったような気分になるのですね。
男も女も人間としては同じですが、脳にはわずかに違いがあります。
男性は低いところが好きという傾向があります。
男性が家で個室を作るなら、地下に個室を作りたがります。地下にあるコーヒーショップは、落ち着くという男性も多いはずです。
逆に女性は、高いところが好きという傾向があります。
デパートのレストランは、必ず最上階にレストランがあります。
女性が喜ぶレストランが最も高い場所にあれば、進んで食事をしたがることでしょう。
「おいしい物を食べたい」という欲求に「高いところに行きたい」という欲求が重なり、レストランの売り上げが伸びます。そのためデパートのレストランは、最上階が定番になっています。
「男性は低い場所を好み、女性は高い場所を好む」というわけです。
もちろんこれらは一般的な話です。
すべての男女に当てはまるわけではありません。
男女間には違いがあり、傾向があることを頭の片隅に入れておけば、役立つ日もあるはずです。夜景が見えるディナーに連れて行けば、喜ばない女性はいません。
男女共通的に言えるのは、高い場所は「非日常感」を味わえるという事でしょう。
感覚的な人間の本能で、高い場所に案内すると、たいていの人は喜ぶという事です。
知っている土地、知らない土地でも、高い所は、人々を心地よい気持ちにさせてくれます。
俯瞰という意味は、物理的な意味で「高いところから見下ろすこと」を意味から、比喩的な意味で「広い視野で物事を見ること」「客観的に物事の全体像を捉えること」を意味します。自分自身や自分の置かれた状況を上から見て客観視するといった意味となりました。
行き詰まった時や何かうまくいかない時などによく人は「俯瞰」します。
自分自身の人生を一本道とした際、高いところから見ると今いる場所の前後もよく見えますよね。
要するに「過去」と「未来」を「現在」と一緒に見て考えることができます。
「俯瞰」をすると、今悩んでいることも未来に繋がっていたり、未来からしたら今は過去であったり、過去にはもっと色々な辛い経験したこと、などに気付くことが出来ます。
高いところから俯瞰して物事を考える事から始めると、気持ちも余裕がでてくるのでしょう。