インドネシアのマカッサルは、息をのむような美しい景色、豊かな文化、そして何よりもその独特の美食で知られています。今回ご紹介するのは、1949年からこの地で愛され続けているDHT(デーハーテー)シロップ、マカッサルの伝統的なシロップです。
DHTシロップは、マカッサルの伝統的な味を瓶に閉じ込めたものです。日本でいうと、かき氷のいちご味シロップに似ていますが、このシロップの真髄はその風味にあります。ただの果実風味ではなく、アンボンバナナ(ピサンアンボン)の深い、芳醇な味わいが最大の特徴です。ピサンアンボンはスラウェシ島のさらに東にあるアンボン島に由来し、インドネシア全土で親しまれています。その鮮やかな緑色の皮と、甘く、クリーミーな黄色い果肉で知られるバナナの一種です。このフルーツは生で食べられるだけでなく、デザートや飲料の風味付けにも使われます。その独特の甘さと香りが、DHTシロップに完璧な風味を加え、マカッサルのデザートを一層引き立てます。
DHTの意味は、「Dari Hasil Tangan」(手作りの結果から)と言われています。DHTシロップの製造は、手作業と労力の結晶です。この伝統的な製法は、家族経営のPT. Duta Harapan Tunggalによって守られています。その製造過程は、ただの産業活動を超え、マカッサルの伝統と文化の継承者であるという誇り高き証です。DHTの社名「Duta Harapan Tunggal」は「唯一の希望の使者」または「唯一の希望の代表」という意味です。「Duta」は「使者」または「代表」、「Harapan」は「希望」、「Tunggal」は「唯一の」または「独立した」という意味があります。この名称は、その会社や製品が持つ独特の価値やビジョン、そして顧客やコミュニティに対するポジティブなメッセージや希望を伝える役割を象徴していると考えられます。DHTという名前の下に、このシロップは今日もなお、多くの人々に愛され続けています。
DHTシロップは、マカッサルの伝統的なデザート、特にピサンイジョ(緑のバナナアイス)との相性が抜群です。ピサンアンボンの甘さとDHTシロップのバナナ風味が融合することで、まさに口の中でトロピカルな祭典が繰り広げられます。このシロップを、暑い日に氷水で薄めて飲むことで、瞬時に心地よい涼しさを提供します。
DHTシロップへの需要は、特にラマダン月に高まります。この聖なる時期に、家族や友人が集まり、断食を終えた後の食事でこのシロップ使った、エスブア(氷と果物の意味)を食べることからはじまります。断食あとの空腹の胃にあまいDHTのシロップを食べる瞬間は、まさに喜びそのものです。この伝統的なシロップは、絆を深め、共に祝福を分かち合う機会を提供します。
DHTシロップとピサンアンボンは、マカッサルの豊かな食文化を代表するものであり、その歴史と伝統を味わう絶好の機会です。マカッサルを訪れる機会があれば、この独特なシロップをぜひ探してみてください。DHTシロップとピサンアンボンの魔法に身を任せ、インドネシアの温かい歓迎と豊かな風味を体験してみてください。