スラウェシ島東海岸・ケンダリへの空の旅。ガルーダ・インドネシア航空GA604便に乗って、朝焼けに染まるマカッサルを出発します。高度の低い約1時間のフライトでは、山岳地帯やボネ湾の絶景、海越えのアプローチなど、変化に富んだ風景が次々と広がります。飛行機好きにもたまらない、空中散歩のひとときを体験しました。
時刻は朝6時。ガルーダ・インドネシア航空GA604便は静かにプッシュバックを終え、滑走路へと向かっていました。
まだ眠そうな乗客たちに囲まれながら、私は後方窓側の座席「45K」から、じっと空の色を眺めていました。
空はゆっくりと夜の色を手放し、東の地平線から太陽の光がうっすらと滲みはじめています。機体が滑走を開始すると、視界が一気に流れ出し、ふわりと浮かび上がった瞬間、遠くの雲が金色に縁どられているのが見えました。
短距離ながらも、このマカッサル〜ケンダリ間の空路は、旅好き・飛行機好きにとっては見どころの多いルート。スラウェシ島の複雑な地形を空からなぞるように飛び、眼下には山々、川、町、そして広大な海が次々に現れます。
離陸後、飛行機はすぐに左へ大きく旋回しながら高度を上げていきます。
外に目をやると、マカッサルの街がまだ明かりを灯しながら広がり、その先には南スラウェシの山々が連なっていました。
この辺りは、まさにスラウェシ島の「背骨」と呼ばれる高地地帯。空からでもその凹凸ははっきりと分かり、谷筋に沿って点在する集落や、うねるように伸びる川が印象的です。
飛行機は通常、13分ほどで高度25,000フィート(約7,600m)まで上昇しますが、長距離国際線のように35,000フィート以上までは上がりません。そのため、地表との距離が近く、山の稜線や雲間から差し込む朝日までが、まるで手が届きそうなほどリアルに感じられます。
その後、ルートは北東方向へと延び、パロポやポソなどの山あいの町をかすめて進んでいきます。地形がぐねぐねと折れ曲がる様子も、スラウェシ島らしい特徴。まるで「K」の字を描くような島の輪郭が、そのまま空から見えるのは、地図好きにとっても嬉しい発見です。
しばらくすると、眼下に広がるのは港町ワタンボネ。ここを境に、飛行機は内陸部を抜け、いよいよ海の上へと出ます。
視界が一気に開け、無限に広がる空と海の青が、窓いっぱいに広がる瞬間――
これこそ、空旅の醍醐味です。
低高度での巡航だからこそ見られる、絵のような光景です。
しばらくの間、ただ見とれてしまいました。
シートベルトサインが消えると同時に、キャビンクルーが機敏に動き出します。
たった1時間の短距離便でも、ガルーダ・インドネシアはしっかりと機内サービスを提供してくれます。
この日は、ビニール袋に入った軽食セットが配られました。中にはふんわりとしたパン、塩気の効いたおつまみ、そしてミネラルウォーター。機内食というほどではありませんが、早朝の移動にぴったりな心遣いです。
窓の外の景色を眺めながらパンをかじる――ただそれだけの時間が、まるで小さな贅沢のように感じられるのは、空の上という非日常の空間に身を置いているからでしょう。
やがて機体はゆっくりと高度を下げ始め、南東スラウェシ州の陸地が視界に戻ってきます。
ケンダリ市街の上空を一度通過した後、飛行機はそのまま海の上へと抜け、そこから大きく旋回。優雅なUターンを描いて、着陸態勢に入っていきます。
このアプローチは、ケンダリ・ハルオレオ空港(KDI)ならではのルート。滑走路が東西方向に伸び、さらに周囲は山がちで高度調整が難しいため、一度海側へ出てからゆるやかに旋回する「ロング・ファイナルアプローチ」が標準ルートとなっています。
この旋回中の景色がまた格別です。
左側にはケンダリ湾と街並み、サンゴ礁に囲まれた小島が点々と浮かび、右側には濃い緑に覆われた山並みと、曲がりくねる川の流れ。朝の光が機体を淡く照らし、まるで旅のフィナーレを演出するかのような美しさでした。
機体が滑走路に接地したのは、ちょうど午前7時。
出発からわずか1時間、けれども濃密で記憶に残る空中散歩でした。
ケンダリ・ハルオレオ空港は小規模ながらも清潔感があり、ターミナル周辺は緑に囲まれた落ち着いた雰囲気。機内を出た瞬間に感じた空気には、海と森が入り混じったような、どこか懐かしい香りがしました。