インドネシア小売り大手ヘローは5月25日、傘下のスーパーマーケット「ジャイアント」を7月末に全店舗閉鎖すると発表しました。コロナ禍で昨年度赤字拡大した結果ですが、インドネシアのハイパーマーケット不振が見えてきます。
本日は、スーパーマーケットのヘローについてお話したいと思います。
ヘロー(HERO Supermarket 会社名PT Hero Supermarket Tbk)は、1971年に創業したインドネシアのスーパーマーケットの最大手です。日常の買い物はパサールと呼ばれる市場で済ますことが普通であったインドネシアで、近代的な小売業態を初めて展開した企業として知られています。
高級スーパーマーケット「ヘロー(Hero」)を始めとして、フランチャイズ契約で運営する家具量販店「IKEA」、香港のドラッグストア「Gardian」、そして今回全店閉鎖のディスカウントハイパーストアの「ジャイアント(Giant)」を運営しています。
ヘローはインドネシアのスーパーマーケットの先駆者として誕生した小売企業です。1954年に創業者のムハンマド・サレー・クルニアが有限会社ヘローを設立したのが始まりです。
創業期のヘローは食品飲料の輸入販売を行なっていましたが、当時インドネシアに駐在する欧米人が食材を求めて頻繁にシンガポールに買い出しに行く姿を見て、ジャカルタでスーパーマーケットをオープンさせることを決意し、1971年に「Hero Supermarket」が誕生しました。
その後順調に店舗数拡大し1980年代には9つの店舗になり、1989年にインドネシア証券取引所にて上場を果たしました。順風満帆で業績も上昇している最中、創業者のクルニアは上場の3年後に57歳の若さで生涯を終えてしまいました。
その後1997年にアジア通貨危機が起こり、創業家はヘローの株式の半分以上を手放してしまい、現在のヘローは香港系Jardin Group傘下企業が過半数を保有しています。
アジア通貨危機の最中、1998年に5,000m²以上の大型ハイパーマーケット「Carrefour(カルフール)」がフランスからやってきました。
ヘローは、カルフールに対抗するため2002年にマレーシアで成功していたハイパーマーケット「ジャイアント(Giant)」をインドネシアで開店させ成功に導きました。
ジャイアントは1989年の上場以降にインドネシア中間層の増加によって企業成長につながりましたが、近年は国内外のスーパーの競合が多くなり、他社の激しい攻勢で業績が悪化していました。2019年にスーパーマーケット30店舗以上閉店し、更にコンビニブランド「ジャイアント・マート」を全店閉鎖しました。
閉店による店舗縮小で業績回復を目指していましたが昨年からのコロナ禍で追い打ちをかけられ、スーパーマーケットとハイパーマーケット事業で苦戦を強いられていました。ヘロー全体の2020年度の営業損失は1兆2000億ルピア(92億円)まで膨れ上がってしまいました。
ドラッグストア事業の「ガーディアン」と「IKEA」が好調でなんとか踏ん張っている状況なので、今回の発表で現在75店舗あるジャイアントをすべて閉鎖し、一部を「IKEA」と「ヘロー」に改装して残りは売却を検討しています。
ヘローの決算内容は食品部門が赤字だそうです。コロナ禍で人々の行動が制限される中で、スーパーマーケットやハイパーマーケットなどの大規模小売店は特に大きな打撃を受けています。食料品は広々とした大規模小売店で長時間買い物をするのではなく、近場の小規模スーパーにおいて短時間で買い物をする人々が増加しました。
さらに、オンラインの食品デリバリーサービスが好調です。「Happy Fresh」や「GrabFresh」などは、複数のスーパーマーケットと提携しており、配達時間の指定ができ、注文から1時間以内の配達にも対応しています。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる景気減速と一般消費の減少も大きな影響ですが、人々の消費パターンの変化が同時に起きています。デジタル革命により、人々のオンラインショッピング活動は増加しています。対面型の店舗に依存していた小売業者はこの現象を真剣に受け止め、どう変革していくかが鍵となりそうです。