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インドネシアで迎える「春節(旧正月)」多文化が彩る“イムレック”の魅力と伝統

インドネシアで旧正月を迎えることは、単なる「中華系住民の行事」という枠を超え、国全体が一緒になって祝福する大きなイベントです。現地では春節を「イムレック(Imlek)」と呼び、街には赤や金色の装飾が施され、獅子舞(バロン・サイ)の演舞が至るところで行われます。ショッピングモールやホテル、公共施設までがお祭りムードに包まれ、訪れた人々を華やかに迎えてくれます。インドネシアの旧正月(イムレック)の歴史、風習、食文化、そして多民族・多宗教国家ならではの魅力をより深く掘り下げて紹介します。日本ではあまり馴染みのないお正月の祝い方ですが、インドネシアの独特な文化背景や多様性を感じ取れる機会でもあります。

イムレックの歴史的背景

中国系住民のルーツと春節の伝来

インドネシアには、古くから中国大陸や華人コミュニティの文化が流入していました。商人や移民が渡来する中で、中華圏で祝われている旧正月(春節)の風習も自然と根付いていきます。春節の時期に赤い装飾を施したり、獅子舞を踊ったり、家族や周りの人々と食事を共にする文化は、インドネシア国内においても長らく受け継がれてきました。

政治的・社会的変遷と復活

しかし、一時期のインドネシアでは中国系住民に対する政策や宗教的制限などの影響により、春節を公に祝うことは制限されていました。特にスハルト政権(1967〜1998年)の下では中国語や中国文化が規制され、旧正月の祝賀行事も控えざるを得ない状況が続いたのです。

その後、政権交代や民主化の流れとともに、中国系住民の文化的活動が再び認められるようになり、2000年初頭にはアブドゥルラフマン・ワヒド(通称グス・ドゥル)大統領の時代に中国正月の文化活動が解禁されました。そして2003年、メガワティ・スカルノプトリ大統領が旧正月(イムレック)を正式に国の祝日として定めたことで、全国的に自由に祝うことが可能となりました。

インドネシアならではの呼び名「イムレック」

「イムレック」という呼称は、華人コミュニティの言語(主に福建語や客家語など)から派生したといわれています。「陰暦(いんれき)」を示す発音が転じたという説もあり、インドネシア国内の中国系住民による言語使用の名残として定着しました。現在では、インドネシア人の間でも「イムレック」という呼び名が広く浸透しています。

旧正月を彩る伝統行事と風習

獅子舞「バロン・サイ(Barongsai)」

イムレックシーズンになると、ショッピングモールやレストラン、街角などで「バロン・サイ」と呼ばれる中国獅子舞を見ることができます。太鼓やシンバルの力強いリズムに合わせて、赤や金色の装飾をあしらった獅子が跳ね回る姿は圧巻。観客が獅子を撫でたり写真を撮ったりすると、魔除けや幸運を呼び込むとされ、子どもから大人まで大人気のパフォーマンスです。

「アンパオ(Angpao)」の贈り合い

日本のお年玉に相当するのが、赤い封筒にお金を入れて贈り合う「アンパオ」です。中国語で「紅包(ホンパオ)」と呼ばれることもありますが、インドネシアでは現地風に「アンパオ」と発音されます。

赤は邪気を払う色とされ、華やかで祝福の象徴です。アンパオの赤い封筒には、受け取った人に健康と繁栄が訪れるよう願いが込められています。

アンパオは通常、既婚者や年長者が子どもや若い世代、あるいは目下の親しい人に配るという風習があります。受け取った方は感謝の気持ちを示しつつ、そのまま封筒を開けずに持ち帰るのが基本的なマナーです。

伝統菓子「クエ・ケランジャン(Kue Keranjang)」ほか多彩な料理

イムレックに欠かせない代表的なお菓子が、黒糖やもち米で作られた「クエ・ケランジャン(Kue Keranjang)」です。中国語で「年糕」と呼ばれるものに近く、インドネシアではスライスして卵をまとわせて焼いたり揚げたりしていただくのが一般的。もちもちとした食感と甘い風味がくせになる一品です。

また、旧正月の食卓には中華料理だけでなく、ナシゴレンやサテなどのインドネシア料理も並びます。ジャワ島を中心とした地域では、豚肉を使用した「バビ・ポンテ(Babi Ponté)」や「ラプチャイ(Cap Cay:炒め煮の野菜料理)」など、中華風とインドネシア風が融合した独自メニューも人気です。家族や親戚同士が集まり、多国籍な味わいを楽しむのもイムレックの醍醐味と言えます。

寺院(Klenteng)での祈り

イムレックの時期には、中国系住民が通う寺院(現地では「Klenteng(クレンテン)」と呼ばれることが多い)で盛大な祈祷や祭礼が行われます。寺院の境内には色鮮やかなランタンが並び、お線香やお供え物を捧げて一年の平安と繁栄を祈ります。お祭りに合わせて演舞やライブ音楽が催されることもあり、観光客も気軽に見学しながらインドネシア特有の庶民的な温かさを感じることができます。

多民族・多宗教国家ならではの魅力

異文化が融合する独特の祝祭ムード

インドネシアは、世界最大のイスラム教人口を抱える国でありながら、キリスト教、カトリック、ヒンドゥー教、仏教、儒教など、多彩な宗教が公式に認められています。イムレックの期間中、たとえ中国系住民でなくとも、同僚や友人の家を訪ねて共に食事を楽しんだり、ショッピングモールのセールやパフォーマンスを一緒に楽しんだりする光景がよく見られます。

こうした相互理解と助け合いの精神こそが、インドネシアの強みであり魅力の一つ。宗教や民族の垣根を越えて、多くの人々が「お祝いごと」を分かち合います。

イムレックの時期になると、多くのレストランやホテルでは特別メニューやディスカウントセールなどを実施します。観光客向けのショッピングモールや伝統市場でも、真っ赤なアンパオ風のパッケージに包まれたお菓子や土産物が並び、普段とは違う華やかな雰囲気を楽しめます。インドネシア人は人懐っこく、祭りごとを共に楽しもうとする意識が強いため、初めての旅行者でも気軽に参加できるのがうれしいポイントです。

ローカル屋台や市場を楽しむ

イムレックの時期は、露店や市場も一段と賑わいます。バザー形式で開催されることもあり、小物や雑貨、地元の特産品などが色鮮やかに並びます。観光客は、地元の人々とのふれあいを楽しみながらショッピングできる貴重なチャンスです。ショッピングセンターや大型ホテルでは、壁や天井にランタンを大量に吊るしたフォトジェニックなディスプレイが作られます。記念撮影をするファミリーやカップルが多く、SNS映えする写真が撮れるスポットとしても人気です。

おわりに

インドネシアの旧正月(イムレック)は、政治的・歴史的な制限を経てもなお、人々の手によって代々受け継がれてきた貴重な文化遺産です。イスラム教をはじめ多様な宗教と民族が共存するインドネシアだからこそ、中国系だけでなく、国中が一体となって盛り上がる祝祭ムードは一見の価値があります。

赤一色に染まった街並みや、バロン・サイの勇壮な舞、アンパオを通して交わされる家族や友人同士の温かい交流など、イムレックの時期ならではの風景は、ほかの国の春節とはひと味違った魅力を放っています。

kenji kuzunuki

葛貫ケンジ@インドネシアの海で闘う社長🇮🇩 Kenndo Fisheries 代表🏢 インドネシア全国の魅力を発信🎥 タコなどの水産会社を経営中25年間サラリーマン人生から、インドネシアで起業してインドネシアライフを満喫しています。 インドネシア情報だけでなく、営業部門に長年いましたので、営業についてや、今プログラミングを勉強中ですので、皆さんのお役にたつ情報をお伝えします。