ラマダン月、イスラム教徒にとって神聖な断食の期間が終わりに近づくにつれ、信仰の深化と精神的な再生を目指す特別な実践、「イティカフ」が行われます。この時期は、個人が日常生活から一時的に離れ、モスクに籠もって断食、祈り、そしてコーランの読誦に専念することで、心の浄化と自己省察を図る重要な機会となります。世界中から信者が集まり、共に精神的な旅を歩むことで、イスラム教のコミュニティはより強固な絆で結ばれます。
イティカフを行うことで、信者は内面の平和を追求し、日々の生活での挑戦や試練に対する耐性を高めます。この期間は、物質的な欲求や日常の雑念から解放され、アッラーとのつながりを深めるためのものです。モスクに籠ることで、信者は神聖な空間での集中的な瞑想や祈りを通じて、自己の内面と向き合う機会を持ちます。
この期間中、特に注目されるのが「ライラトゥル・カダル(Lailatul qadar)」、またの名を「みいつの夜」です。ラマダン月の最後の10日間に位置し、奇数日に訪れるとされるこの夜は、イスラム教の教えによれば、信者にとって計り知れない価値があるとされています。伝統によると、この夜に行う一切の善行は、なんと千カ月分(約83年分)以上の善行に匹敵すると言われており、信者にとっては一生に一度の機会とも言える貴重な時間です。「みいつの夜」はイティカフの一部であり、イスラム暦のラマダン月の21日から10日間のうち、奇数日(21、23、25、27、29)のいずれかに訪れるとされます。この夜は、預言者ムハンマドにアッラーからコーランが最初に啓示されたとされ、その夜は「御稜威」「御厳」の意味を持ちます。どの日が「みいつの夜」であるかについては様々な議論があり、正確な日付は誰にも分からないとされています。重要なのは、この10日間集中して信仰心を高めることです。
「みいつの夜」に向けて、信者たちはさらに精神的な準備を整えます。この夜には、コーランの読誦、特別な祈り、そして夜通しの瞑想が行われ、信者は自らの信仰を新たなレベルへと高めることを目指します。この夜の特別な意味は、ただ単に祈りや読誦を行う以上のものであり、信者個人の心の中でアッラーとの深い結びつきを感じ、内面の変革を経験することにあります。
イスラム教徒にとって、「みいつの夜」は、ただの時間の経過を超えた、永遠の価値を持つ瞬間です。この夜に捧げる善行と祈りは、信者の人生における重要な瞬間として、その精神的な旅路において決定的な役割を果たします。イティカフの実践と「みいつの夜」を通じて、信者は不変の信仰とアッラーへの無限の愛を確認し、日々の生活においてもその精神を反映させるよう努めます。この時期は、自己改革と精神的な成長の象徴となり、信者それぞれにとって深い意味と価値を持つのです。
あとわずかでラマダンが終わり、イスラム教徒はイード・アル=フィトルを迎えます。この時期は、断食の終了を祝い、家族や友人との絆を深め、共に祝福を分かち合う時間です。