豪グリフィス大学とインドネシア国立考古学研究センター(ARKENAS)の共同研究チームは、2017年、スラウェシ島南部マカッサルに近接する鍾乳洞「リアン・テドング洞窟」の現地調査において、スラウェシ島の固有種「セレベスヒゲイノシシ」の壁画を発見しました。
1月15日に発表された学術雑誌「サイエンス・アドバンシス」によると、壁画に付着した炭酸カルシウム堆積物を採取し、ウラン系列同位体分析を用いて年代測定した結果、少なくとも4万5500年を経過したものであることがわかりました。動物を描いた壁画としては世界最古のものとみられています。
暗い赤色の土性顔料を用いて描かれた、幅136センチ、高さ54センチのイノシシは、短毛を逆立てたたてがみがあり、顔にはセレベスヒゲイノシシの雄の成体に特有の角のような一対のイボがみられます。そのイノシシの近くには2つのヒトの手形が確認できるほか、別のイノシシ2頭が戦っているような姿の一部も残されていました。
この壁画は、45,000年以上前からこの地に人類が定住していたことを示すものとしても注目されています。また、セレベスヒゲイノシシは島内の氷河期の壁画でもっともよく描かれる動物であることから、長年、食料としてのみならず、創造的な思考や芸術的な表現においても大切にされていたことがうかがえるとのことです。
マカッサルの隣のマロス県のリアン・テドング洞窟(Leang Tedongnge)は、周辺道路から徒歩で1時間以上の離れた谷間にあり、切り立った石灰岩の断崖に囲まれていて、乾期にしか行けない場所にあります。
現地の先住民であるブギス人によると、西洋人が入る事はなかったようです。マロス周辺はカルスト地形となっていて、多くの鍾乳洞など、洞窟が多数あり、古代の人々はすくなくとも45,000年前までシェルターとして使用していたことになります。
45,000年前にインドネシアのスラウェシ島の住民は、すでに物語の一部を洞窟の壁に描き始めていました。スラウェシ島では人類が数万年前からイノシシの狩猟を行っていたことが分かっており、狩猟の様子は先史時代の洞窟壁画の主な特徴となっています。
狩猟の様子を描いたとみられるこの壁画は、宗教信仰を示す世界最古の記録であり、すでに当時の人々がフィクションの概念をもっていたことを示す可能性があるというのです。
このイノシシと向かい合うような位置には、部分的にしか残っていない別の2匹のイノシシの壁画もあり、論文共著者のアダム・ブラム氏は「2匹の闘いか交流を、もう1匹が観察しているように見える」と述べています。この壁画の左端に添えられた暗赤色の手形のステンシルは、古代の芸術家のサインのようにも見えるというのです。
周辺には、未調査の洞窟がすくなくとも242ヶ所あるため、まだ数百ヶ所で新たな発見が見込めそうとのことです。これから更に新たな発見があるかもしれません。マロス周辺は、ラマン・ラマンのような風光明媚な場所でもありますので、45,000年前の先人類も同じ風景を見ていたと思うと、古代ロマンを想像しながらワクワクしてしまいます。