日本国内での仕事や生活に慣れ親しんでいると、「海外に住む」という発想はどこか遠い世界のように感じるかもしれません。しかし、年齢を重ねるにつれて生まれるさまざまな経験値や広い視野は、新たな土地で活かされる大きな武器になります。実際に40代の頃から海外出張が増えたことをきっかけに、「もっと長期的に海外で挑戦してみたい」との思いから、50歳でインドネシアへ飛び込みました。初めは右も左も分からない環境でしたが、現在ではインドネシアのマカッサルに移り住んで4年目を迎えています。
「海外移住をしたい」という思いを形にするまでの道のりは人それぞれです。性格や経済状況、リサーチの度合いによってもプロセスは異なるでしょう。事前に綿密な計画を立てる人がいれば、「とりあえず行ってみてから考える」という行動力重視の人もいます。どちらが正解、というわけではありません。ただし、一度海外に出ると日本とはまったく違う文化・習慣の中で生活することになるため、予期せぬトラブルや異なる価値観に直面することも珍しくありません。
そうした環境の中で自分を見失わず、充実した海外生活を築くためには、どのような心構えが必要なのでしょうか。ここでは、私のインドネシア移住経験も交えながら、「海外移住で役立つ心構え」をご紹介します。
海外移住を考える人の中には、「海外で生活してみたいけど、具体的に何をすればいいのか分からない」「憧れはあるが、年齢的に遅すぎるのではないか」という不安を抱える方も少なくありません。しかし結論から言えば、「やりたい」と思ったときに行動することが何より大事です。
私自身も、最初の移住は「まずは行ってみよう」という行動力重視のアプローチでした。もちろん事前に情報収集はしていましたが、完璧な計画を立てられるほど海外生活に慣れているわけでもなく、行ってから課題に直面し、そのつど修正していく形でした。
年齢を重ねると、どうしても「失敗は避けたい」「大きなリスクは負いたくない」と思いがちです。しかし、海外移住の最初の一歩は、ある意味“勢い”も必要。新しい土地での刺激は、予想以上に新鮮で、同時に学びが多い経験になりました。
現地に着くと、あらかじめ想定していた計画が大きく狂うこともしばしばあります。例えば、言葉の問題。「英語が通じるはず」と思っていたエリアでまったく英語が通じなかったり、日本とはまるで違う行政手続きのルールがあったり……。そんなとき、必要なのは柔軟性です。「こうあるべき」と自分の常識を押し付けようとすると、ストレスも増大してしまいます。
逆に、フラットな姿勢で現地のやり方を受け入れようとすると、周囲の人々も手を差し伸べてくれることが多いものです。柔軟性は新たな環境に早く溶け込むための一番の近道といえるでしょう。
海外へ移住する理由は人それぞれです。留学、就労、起業、資産運用……。私の場合は、長年の海外出張で培った「海外志向」が、50代からの人生をもっと面白くできるのではないかと感じたことが大きなきっかけでした。
実際に生活を始めると、良くも悪くも「想定外の出来事」は後を絶ちません。インドネシアに来たばかりの6ヶ月間は、まず現地の気候や文化、習慣になじむことに精一杯。日本では簡単にできていたことが、こちらでは簡単に進まないという場面に数多く直面しました。
こんなときに重要なのは、起きた問題を受け流すだけでなく、「なぜこうなっているのか」「どうしたら解決できるか」と落ち着いて考えること。焦らずに一つひとつ解決策を探る姿勢があれば、やがて明るい道筋が見えてきます。
仕事であれ生活面であれ、困難にぶつかったときは感情的になってしまいがちです。しかし、海外生活では自分が「外国人」であることを理解し、まず現地の仕組みや価値観を知る努力が欠かせません。
特にインドネシアの場合、手続き関係が日本よりも複雑に感じることもありました。ビザ更新ひとつにしても、突然新しい書類が必要になったり、役所での対応が異なったり……。イライラしてしまうこともありましたが、その都度「ここではこれが当たり前なんだ」という視点に切り替えるようにしました。
ゆっくりでも、現地の人に相談したり、日本人コミュニティで情報を交換したりしながら、解決策を模索する。この繰り返しが、最終的には「自分の海外生活の基盤づくり」に大いに役立ちます。
海外移住を考えるとき、まずは「どの国に住むか」を思い浮かべるかもしれません。しかし、同じ国の中でも地域によって住環境はまったく異なります。最初に住んだ場所がすべて自分に合うとは限らないのが現実です。
初めての移住先が「自分にぴったり」だとは限らない。私の場合はインドネシアのマカッサルという都市を拠点にしていますが、着いてすぐはホテル暮らしでした。慣れない土地でのホテル暮らしは、身軽な反面、部屋の快適性や周辺環境、金銭面などさまざまな課題があります。
連泊費用がかさみ、荷物が増えてくると移動するのも億劫になる。そのため、途中からはアパートや住宅を探して、より長期滞在に適した場所を選ぶようにしました。実際にマカッサルの中心街にあるパナックカン地区に近く、スーパーやレストランが徒歩圏内のアパートを見つけることで、生活のストレスは大幅に減りました。
長期的に海外生活を続けるなら、住環境の良し悪しは非常に大切です。部屋のサイズや収納、シャワー環境など、日本と同じ感覚で探していると、なかなか理想に近い物件が見つからないかもしれません。
私の場合、バスタブ付きの物件を探すのに苦労しましたが、結果的には湯船でしっかり疲れをとれることがストレス軽減に直結しました。現地流に慣れるのも大切ですが、「ここだけは譲れない」というポイントを明確にしておくと、後々後悔せずにすみます。
海外移住先で快適に生活するには、「自分と似たバックグラウンドを持つ人」と「生まれ育った環境が全く異なる人」、両方の情報をうまく取り入れることが重要です。
インドネシアには多くの日本人駐在員がいたり、現地で独立・起業している日本人も少なくありません。彼らとの交流を通じて得られるメリットは多岐にわたります。
特にビザ関連や役所の手続き、銀行口座開設など、ローカルに聞くよりも日本語での情報が早く正確に手に入るケースもあります。また、日本ならではの行事や季節のイベントに触れる機会があると、海外生活の中で感じるホームシックも緩和されるでしょう。
一方で、ローカルの人々との交流は、さらに深い現地理解につながります。例えばインドネシアでは宗教が生活の中心にある場合が多く、飲食や休日、ビジネスマナーに大きな影響を与えています。日本人コミュニティだけでは分からない“当たり前”がローカルには存在し、その背景を知ることでトラブルを未然に防げることも多々あるのです。
相手からすれば「自分の文化に興味を持ってくれている外国人」という好印象につながりやすく、人間関係もスムーズになります。海外生活が長くなればなるほど、ローカルとの繋がりがかけがえのない財産になると実感します。
50歳という節目でインドネシアへ飛び込み、試行錯誤を繰り返しながら3年間の海外移住生活を続けてきました。そのなかで感じたのは、「海外移住に適した完璧なタイミングや完全なる準備は、実は存在しない」ということです。若くして挑戦する人もいれば、家族や仕事の事情が一段落したタイミングで飛び出す人もいます。
どの時期、どの年齢であっても、海外生活において大切なのは、以下の3つの心構えだと実感しています。
現状の悩み・課題に率直に向き合う
いきなり想定外のトラブルに直面しても、ゆっくり時間をかけて解決方法を探る
自身に適した場所や環境を見つける
ホテル暮らしやアパート探しなど、状況に応じて柔軟に住まいを変え、ストレスを減らす
日本人とローカル双方から情報を収集する
同じ日本人の目線と、現地に長く住むローカルの目線を組み合わせて多角的に情報を得る
これらを意識すれば、多少のハプニングや文化の違いも「経験」として楽しめるようになります。特にインドネシアのような多様性に富む国では、知れば知るほど新しい発見があるのが面白いところです。
人生をもう一度リスタートさせたい、これまでとは違う景色を見たい。そんな思いで海外に飛び出すのは勇気が要りますが、そのぶん得られるものは大きいはずです。年齢や背景に関係なく、新しい土地で自分を試してみたいという方の背中を、少しでも押せたなら幸いです。
もしこれを読んで「自分もいつか海外で暮らしてみたい」と思ったなら、まずは情報収集から始めてみるのも良いでしょう。最近ではSNSやオンラインコミュニティを通じて、現地在住者のリアルな声を聞くことも容易になりました。実際に現地へ足を運んで体験してみる「下見」としての短期滞在も、有益な一歩です。
自分の新しい可能性を切り拓くために、そして第二の人生をより充実したものにするために、海外移住という選択肢をぜひ視野に入れてみてください。