インドネシア国立博物館(Museum Nasional)は、2023年に発生した火災の影響で約1年間閉館していましたが、2024年10月15日に再オープンしました。再開した博物館は、返還された歴史的文化財や修復された貴重な展示品が揃い、火災後の復興の姿を垣間見ることができます。さらに、最新のデジタル技術も導入され、訪問者がインドネシアの豊かな文化と歴史に触れ、インタラクティブに学べる展示内容となっています。再び多くの訪問者を迎えるこの国立博物館で、伝統と革新が融合したインドネシアの遺産を感じられる見どころをご紹介します。
インドネシア国立博物館は、1778年に設立されたインドネシア最古かつ最大規模の博物館です。長い歴史を誇るこの施設には、約14万点に及ぶ展示品が収められており、その幅広いコレクションは考古学的遺物、民族工芸品、美術品、歴史的資料など多岐にわたります。インドネシアの多様な民族と歴史を深く理解するための重要な文化拠点であり、特にジャワ原人の化石やヒンドゥー教・仏教に関連する石像など、インドネシアのルーツに関する貴重な資料が多く展示されています。
博物館の建物は19世紀のオランダ植民地時代に建てられたコロニアルスタイルのデザインが特徴で、白い壁やアーチ型の窓、広々とした中庭が、当時の雰囲気を今に伝えています。展示室の構造は、訪問者がゆったりと回遊しながら各展示品を鑑賞できるよう設計されており、館内の落ち着いた照明が展示品の魅力を引き立てています。地元民や観光客がインドネシアの歴史を学ぶための場であるだけでなく、その歴史的価値からも多くの人々に愛されている場所です。
2023年9月16日の夜、インドネシア国立博物館の一部で火災が発生しました。この火災により、4つの展示室が損傷し、屋根の一部が崩れ落ちるなど深刻な被害を受けました。
火災発生直後、消防隊52名が迅速に消火活動を行い、約22時には鎮火されましたが、多くの文化財が危険にさらされました。902点に及ぶ文化財が損傷し、その後の迅速な修復活動が必要とされました。火災原因は明確には判明していませんが、専門家の見解では電気系統のショートが原因ではないかとされています。
その後、教育文化研究技術大臣であるナディーム・マカリム氏は、影響を受けた展示品の救出と保全を最優先事項とし、博物館の早期再開を目指して支援を行いました。約1年間にわたる修復作業を経て、博物館は2024年10月15日に再び訪問者を迎えることができました。
再開後は、焼け残った部分をそのまま残して展示することで、火災の影響を可視化し、文化財の修復と保全の重要性について考える機会も提供しています。
再オープンしたインドネシア国立博物館では、新たな展示内容が訪問者の関心を集めています。特に、旧宗主国オランダから返還された13世紀のシンゴサリ王朝に関連する石像4体は今回初めて一般に公開されることとなりました。
ヒンドゥー教のシバ神の乗り物とされる牛の石像や仏教にまつわる彫刻が含まれ、これらはインドネシアとオランダの間で進められてきた文化財の返還の成果として重要な意味を持っています。
また、火災で損傷を受けた一部の文化財も展示されており、焼け焦げが残る仏像や損傷部分を修復中の展示物が並びます。
「文化遺産と知識の返還」という特別展では、過去70年間に返還された2500点以上の文化財が一堂に展示され、インドネシアの歴史的背景と返還に至る経緯も知ることができます。
中でも「ロンボク宝物」と呼ばれる宝石類は見逃せない展示のひとつで、かつて国外に持ち出された文化財が再び国民の前に戻ってきたという象徴的な意義も持っています。こうした展示を通じて、インドネシアの文化遺産の大切さと、他国との文化交流の歴史も感じられる内容となっています。
再開後のインドネシア国立博物館では、展示物の理解を深めるために最新のデジタル技術が導入されています。まず、拡張現実(AR)技術が活用されており、訪問者がスマートフォンを使用して展示品にかざすと、関連する情報がインタラクティブに表示されます。これにより、展示物の背景や文化的な意義をリアルタイムで学ぶことができ、伝統的な展示方法に比べてより深い知識を得られるようになっています。
さらに、各展示物にはQRコードが設置されており、スマートフォンで読み取ることで、さらに詳しい情報や関連資料が閲覧可能です。また、デジタルディスプレイも多数設置されており、訪問者は興味のある展示内容を自分で選択して鑑賞することができます。
特にユニークなのが、バリ万国博覧会に出品されたインドネシアの民族地図です。
地図には各民族の代表的な衣装や顔が描かれたディスプレイがあり、来館者がカメラで自分の顔を撮影すると、AIが最も近い民族を判定してくれる仕組みが導入されています。
結果は大画面で表示され、QRコードでダウンロードできるほか、Rp10,000でプリントアウトも可能です。このユニークな体験は、インドネシアの多民族社会への理解を深めると同時に、記念としても楽しむことができると訪問者に好評です。
再開後のインドネシア国立博物館は、火災によって一部が損傷を受けましたが、展示室の整理が行われ、多くの展示品が新たなキャプションと共に公開されています。展示物は地域ごとにテーマ別に分かれており、ジャワ島、スマトラ島、バリ島の工芸品や、バリ絵画、繊細な木彫りなど、インドネシア各地の文化が一度に楽しめる展示内容です。訪問者はこれらのコレクションを通じて、インドネシアが誇る多様な芸術と文化の奥深さを感じることができるでしょう。
展示内容は定期的に更新される予定であり、一部の部屋では今後さらに多くの展示物が追加される計画が進行中です。館内のガイドツアーや教育プログラムも復活しており、毎週火曜日と第1土曜日には日本語ガイドによるツアーが無料で開催されています。また、土曜日にはインドネシアの伝統音楽「ガムラン」や舞踊のワークショップも行われ、体験型プログラムも楽しむことができ、観光客だけでなく地元の人々にとっても教育的な価値が高まっています。
インドネシア国立博物館は、インドネシア国内外の観光客が訪れやすい立地で、入場料も手頃です。入場料は、インドネシア国民(大人)Rp. 25,000、外国人(大人)Rp. 50,000、KITAS保持者もインドネシア国民と同額のRp. 25,000となっており、手軽に訪問することができます。ジャカルタ中心部からのアクセスも良好で、観光や教育目的で多くの人々が訪れるこの博物館は、インドネシアの文化と歴史に触れるために訪れる価値のあるスポットです。
再開を果たしたインドネシア国立博物館は、火災の影響を乗り越え、さらに充実した展示内容で再び訪問者を迎え入れています。歴史的な展示品や文化財の保護、そして最新のデジタル技術を活用したインタラクティブな体験まで、多様な見どころが詰まっています。伝統的な展示方法とデジタル技術の融合により、インドネシアの豊かな文化遺産を深く学びながら楽しむことができ、訪問者にとって貴重な教育の場ともなっています。ジャカルタに訪れる際には、ぜひインドネシア国立博物館を訪れ、この素晴らしい文化と歴史に触れる特別なひとときを過ごしてみてください。