バリ島キンタマーニ高原でのピトラ・ヤドニャのンガベンの盛大な祭典
バンリ県のキンタマーニ地方に伝わる伝統的な葬式であるウパチャラ・ピトラ・ヤドニャ (Upacara Pitra Yadnya)のンガベン(Ngaben)を見るためにやってきました。数年に一度しか見られないとあって、祭りのクライマックスに合わせて訪問することができました。
アバン村へ訪問
1,500m近くの高地にあるアバン村にやってきました。この村は現在も日本の水産業で特定技能外国人として働いている友人の故郷です。集合場所は、朝10時に友人の実家でしたが、到着すると誰もおらず、犬と鳥の鳴き声だけが響いていました。家族総出で祭りの準備に忙しいのだろうと思いながら待っていると、友人から「もう少しで実家の前を行列が通過する」と連絡がありました。
しばらく待つと、遠くからバリ独特のガムランの音が聞こえ、行列がやってきました。行列はガムラン音楽隊を先頭に、村の聖水を持つ人々、長い木綿布を頭部に広げ、その下には故人の写真と遺体を携えた一行が続いています。
行列を眺めていると、バリ人の友人と合流しました。この行列はあと1時間ほどで寺院に到着するので、車で先回りして行くことにしました。
ガムラン音楽と葬儀行列
細い道の裏道を使って、なんとか先回りに成功し、ダラム・ポ・テゲ寺院に到着しました。この寺院は古代寺院のひとつで、由緒正しい神聖な場所です。すでに村の女性たちが食事や飲み物の準備をしており、子供たちも大勢集まっていました。いつもは閑静な古代寺院も本日は大変賑わっていました。
古代寺院での儀式
数百人におよぶ葬儀パレードが続き、ガムランの音が華やかに響きます。
圧巻は10メートル以上の高さを誇る「バデ」と呼ばれる多重棟の山車と、棺を運ぶための黒牛の巨大ハリボテ「ルンブー」です。
行列が寺院に到着すると、人々はバデの周りに集まり、儀式が始まりました。
バデは高さ10メートル以上の多重棟で、その壮大さに圧倒されました。村人たちはバデを取り囲むように広場を3回廻り、その後遺体を収める儀式が行われました。今回は36世帯分あり、かなり時間がかかりましたが、無事に遺体が収められました。
バデの中に遺体が収められると、階段が取り除かれ、いよいよパレードの準備が整いました。ガムランの音楽が絶えず響き渡り、葬儀ということを忘れてしまうほど華やかな雰囲気が漂っていました。
バデとルンブーの登場
バデと並んで重要な役割を果たすのが「ルンブー」と呼ばれる巨大なハリボテです。
ルンブーは故人の魂を天に送り出すための象徴的な存在であり、その迫力に圧倒されました。
村人たちはバデとルンブーを担ぎ上げ、広場へと移動しました。この瞬間が葬式の中で最も盛り上がる瞬間であり、ガムランの音が一層華やかに響き渡りました。
パレードと火葬の準備
広場に到着すると、バデとルンブーは定位置に収められ、火葬の準備が進められました。村人たちは順番にお供え物を捧げ、祈りを捧げました。火葬の準備が整うまでの間、ガムランの音楽が途切れることなく続き、村全体が一体となって故人を送り出す姿に感動しました。
しかし、16時を過ぎ、見学だけでも6時間近く経過していたため、火葬の様子を見る前に退散することにしました。後で聞くと、夜中まで祭りは続き、火葬の後、遺灰は聖なる海に散布されたそうです。
葬式の意義
ヒンドゥー教の人々にとって葬式は次の人生への出発点であり、非常に重要なライフイベントです。葬式には大掛かりな準備が必要で、ルンブーやバデ、供物や祭壇などを作らなければなりません。
そのため、近年では数年に一度の合同葬儀が増えています。バリの人々の葬式への熱いエネルギーを感じながら、キンタマーニを後にしました。
この体験を通じて、バリヒンドゥー教の文化と伝統、そしてその深い意味を学ぶことができました。ピトラ・ヤドニャは単なる葬儀ではなく、故人の魂を浄化し、新たな命へと送り出す神聖な儀式であることを再認識しました。バリの人々が祖先を敬い、コミュニティの絆を大切にする姿勢に感銘を受けました。この貴重な体験を心に刻みながら、また訪れる機会を楽しみにしています。