オムニバス法案に対する労働団体の抗議デモが7月16日、インドネシア各地で行われました。中央ジャカルタの国会前では午後7時以降もデモ隊が道路を封鎖し、一部が配備された警官に対して瓶を投げたり、爆竹を鳴らすなどしたと地元メディアが報じました。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、「コロナよりもオムニバス法案の方が恐ろしい」などと訴えたといいます。
労働団体は、このオムニバス法案は投資家、そして大企業重視だとして反対しているようです。オムニバス法案とはなにか、またなぜインドネシア政府は成立させたいのか。市民は何を反対しているのかを解説します。
インドネシア政府が2月12日に国会提出した雇用創出オムニバス法案では、外資規制に関する法改正が予定されています。労働法令の改正案を含む「雇用創出オムニバス法案」を国会に提出しました。
同法案は,企業の投資拡大による雇用創出を企図しており,投資許認可手続きの改正,労働法の改正などが含まれることから,投資環境改善の目玉となるかが注目されています。
労働法の改正については,最低賃金や,解雇,退職金、失業保険,時間給制度,外国人労働者などを主な項目としています。
現行の法律では、外国企業を一律に大企業分類と位置付けるとしていて、中小規模の外国企業がインドネシアに進出できないというのが、制度上の要因となっていました。
中小企業の定義が、全ての業種で「純資産100億ルピア(約8,000万円)以下、もしくは年商500億ルピア以下」と定めているからです。
今回の法案では、中小零細企業の定義を定める条文を撤廃し、代わりに、純資産、年商、投資額、雇用者数によって、事業分野ごとの定義を下位法令(政令)で定めるとしている。
これにより、業種によっては、中小企業の要件金額が緩められる可能性があり、外国企業が進出しやすくなると期待される。
現在インドネシアは、500超の事業分野について内資との合弁義務(ネガティブリスト)を定めているが、オムニバス法案では、ネガティブリストに関する記載を条文から削除している。代わりに、詳細を大統領規程において定めるとした。
従来のネガティブリストを衣替えし、政府が投資優先する分野を打ち出したプライオリティリストを導入する見通しです。
優先分野に含まれるものは、ハイテク産業、大規模投資、デジタル産業、労働集約型産業となっている。
ネガティブリストを廃止するのかどうかは、今後の推移をみる必要がありますが、より多くの分野の投資を呼び込む方針に転換していくと期待されています。
外国のスタートアップについては、労働法の改正案の中に、外国人雇用計画書(RPTKA)なしでもインドネシアにおいて、外国人が働くことができるといった規制緩和につながる条文が盛り込まれている。
最低賃金の上昇率については,現行の「国の経済成長率とインフレ率の和」を改め,同法案では「州別経済成長率」に基づくとした。
インドネシアでの経営上の問題点として,日系企業が最上位にあげているのが,従業員の賃金上昇です。
ジャカルタ首都特別区の2019年の法定最低賃金は,前年比8.03%増の394万973ルピアとなった。
ジャカルタ近隣のブカシ県は,さらに高く414万6,126ルピアとなっている。
近年,8%超の最低賃金上昇率が続いてきたが,同法案が可決されれば,ジャカルタや西ジャワ州の最低賃金上昇率は5%台まで下がることが期待されます。
同法案では,雇用者側の解雇可能事由が追加された。
例えば,従業員が無断欠勤した場合や,雇用契約や会社規則に違反した場合,会社に返済義務のある債務を滞納している場合,などを解雇事由とした。
ただし,解雇手続きは従来どおり,原則として産業関係紛争解決機関の採決を経る必要がある。
現行法令において,退職手当や功労金,損失保証金,送別金を定めているが,同法案では,このうち損失保証金を法令の対象外として雇用契約で定めるとした。
さらに,重大な違反などにより解雇された従業員に対する送別金については条文を撤廃した。
解雇された従業員は,手当金や職業訓練,就職案内などの社会保障を受けられる見込み。
時間給雇用制度の導入や外国人労働者雇用の規制緩和なども盛り込まれている。
法案には、雇用の流動化を促すものの、日本で規制緩和の名の下に行われた雇用に関する改革の負の影響と同じように、労働者側に雇用の不安定化・喪失などの不安をもたらす可能性があると指摘されています。
経済重視を掲げ、投資促進を目的とする法改正は、煩雑な手続きに嫌気がさしている日本を含む海外の企業は大歓迎です。
各種手続きの簡素化は日本企業がインドネシア進出しやすい形となりそうです。
この法案に対してはさまざまな懸念が表明されています。
インドネシア政府によるとオムニバス法案は2020年中の成立を目標として議論中です。
オムニバス法案が通過すれば規制緩和によって一部だけが富を手にし、人々の生活が良くなることはないとの指摘があります。
つまりインドネシアは政治・経済権力を特定の少数の人々が握っている政体に戻ってしまい、長期的には不安定要素を生み出すものにもなりかねないと懸念の声が上がっていて今回のデモが起こっています。
外資の要望に沿った形での法改正を行う背景には,外資をいかに呼び込むことで、経済成長率で目標としている6%成長のためには不可欠であるという認識にからくるものです。
現在インドネシアは年5%程度の成長をしているが,毎年200万人といわれる新規就業者の雇用を確保するには6%成長が必要です。
労働団体などの反発はあるがインドネシア政府としては、自国の成長のためには、オムニバス法案成立が不可欠との主張です。
今後のインドネシア政府の対応に注目していきたいですね。