2021年5月24日、インドネシア首都ジャカルタにおいて、駐インドネシア金杉大使とインドネシア外務省アジア・太平洋・アフリカ総局長アブドゥル・カディール・ジャイラニ氏との間で、漁業取締船の贈与に関する書簡の交換が行われました。今回の漁業取締船の贈与は今年1月に続き2隻目となりました。本日は、海洋国家であるインドネシアをめぐる違法操業の実態についてまとめます。
今回贈与が決まった取締船は、1994年平成6年4月に竣工、船体総トン数499トン、全長63.35mの旧「白萩丸」です。水産庁は今年の1月にも、2020年3月に退役した旧「白嶺丸」を、インドネシア海洋水産省へ贈与決定していますので、旧「白萩丸」は贈与2隻目となります。旧「白嶺丸」は水産庁で保有していた漁業取締船を外国政府へ贈与するのは、初めてのケースでした。
後継の新「白萩丸」は、新「白嶺丸」、「白鷲丸」と同仕様の漁業取締船として、約904総トン,全長68.5メートル,幅10.6メートル,最大搭載人員31名と前世代の取締船よりも大型化され耐航性も向上、取締りに関しての探照灯,電光掲示板,遠隔操作式放水銃など最新鋭の設備も搭載されているそうです。
近年、インドネシアにおいて、違法漁業による損失が深刻化しています。一方で、取締りに適した漁業監視船を所有していない問題がありました。
インドネシア政府は、排他的経済水域で許可なく違法に操業する外国籍漁船などへの厳しい対応を続けています。インドネシア当局によると違法漁船は、ベトナム、マレーシア、中国、フィリピンなどの漁船が含まれているそうです。違法漁船は南シナ海南方のインドネシア領ナツナ諸島周辺海域でカツオ、マグロ、カジキなどを無許可で獲っています。
これまでは漁船を砲撃や爆弾などで爆破という派手な方法で処分していました。拿捕した船を爆破し沈没を命じた、前スシ・プジアストゥティ海洋水産大臣は「女ゴルゴ13」の異名を持っています。インドネシア海上保安当局や海軍の艦艇によって違法操業中に拿捕された漁船は、乗組員を拘留した後に安全を確保して漁船を処分しているので、人的被害は発生していません。
最近では、海水注入による水没という、爆破による環境汚染を避け、なおかつ沈没させた船が海底で漁礁となることなどに配慮した穏やかな方法を採用しています。
インドネシアは2014年のジョコ・ウィ政権誕生以来、領海や排他的経済水域の警備警戒、権益保護に特に力を入れており、海洋水産省によると2014年10月以来処分した違法操業外国漁船は約500隻に上るそうです。
インドネシア海で行われている違法操業をストップさせるため、拿捕した外国籍漁船に対し、たびたび当該国の返還要求にも関わらず爆破・水没処分するなどの強硬な姿勢を示して処分の正当性と違法操業の根絶を訴えていましたが、政府内からも「すでに十分である」「強硬姿勢は不要だ」などと反対する声がでていました。
インドネシアの違法漁業取締は、更なる漁業監視能力の向上が求められているため今回の2隻の取締船の譲渡につながりました。日本とインドネシアが漁業大国として経済的・社会的安定、国民生活の向上、離島開発や水産分野の需要拡大につながるように応援したいと思います。