インドネシアでは「お茶がとても甘い」と驚かれた経験はありませんか? 日本では砂糖を加えずそのままの風味を楽しむお茶文化が一般的ですが、インドネシアでは“甘いお茶”がスタンダード。しかも、その甘さは日本人の感覚からするとかなりの甘味です。なぜ、これほどまでに甘いお茶が好まれ、広く根付いているのでしょうか。インドネシアのお茶が甘い理由をひもときながら、現地の日常に深く根を下ろした甘いお茶文化についてお伝えします。
インドネシアで「お茶」を注文すると、ほとんどの場合、何も言わなくても砂糖入りのものが出てきます。これが「テ・マニス(Teh Manis)」と呼ばれるスタイルで、文字どおり「甘いお茶」を意味します。砂糖の量はお店や地域、人によって異なるものの、日本の基準でいえば驚くほど多めに入っていることがほとんどです。
一方で、私自身はいつも無糖のお茶を飲みたいので、インドネシアに滞在するときは「テ・タワール(Teh Tawar)」(砂糖なしのお茶)を注文するようにしています。しかし、ローカルの小さなワルン(屋台食堂)などでは「テ・タワール」を頼んでも、店主が甘い味に慣れているあまり、うっかり砂糖を入れてしまうハプニングが起こることもしばしば。それほどに、“甘いお茶”が日常的であるという証拠ともいえるでしょう。
インドネシアの人々は、昔から「甘い=おいしい」という感覚を強くもっています。これは宗教的・歴史的背景にも関係があるとされています。イスラム教を信仰する人々が多いインドネシアでは、アルコールではなく甘い飲み物でコミュニケーションを楽しむ習慣が根付いてきました。特に大家族が集まる祭事や断食明けの食事(イドゥル・フィトリ)などでは、甘い飲み物はお祝いの席を彩る大切なアイテムです。
また、オランダ植民地時代(約350年にわたる統治)の影響も少なくありません。砂糖のプランテーションが拡大され、手に入りやすくなったことで、庶民の間にも砂糖の利用が広まったといわれています。こうした長い歴史を経て、インドネシアの食文化の中で「お茶には砂糖を入れるのが普通」という認識が当たり前となりました。
さらに、インドネシアの家庭では来客をもてなす際に、お茶と共に甘いお菓子やケーキ(クエ)を出すのが習慣となっています。最初からお茶自体が甘いと、お菓子との組み合わせも自然になり、ゲストにより大きな満足感を与えられるわけです。
インドネシアは赤道近くに位置し、一年を通して高温多湿の気候にさらされています。とりわけジャカルタやバリなどは、平均気温が30度前後に達することが多く、日常的に大量の汗をかきやすい環境です。こうした暑い国では水分補給はもちろんのこと、糖分を補う必要性も高まります。
大きな声で呼び込みをする屋台の店主や、畑や工場で長時間働く人々にとっては、甘い飲み物が手軽なエネルギー源となります。インドネシアの場合はトロピカルフルーツジュースや、砂糖をたっぷり入れたお茶がポピュラー。甘い飲み物が疲労回復に効果的と感じる人が多く、自然と“甘いお茶”文化が広まったのです。
さらに、暑いと感じると私たちは冷たい飲み物を欲しますが、インドネシアでは冷たいお茶にもしっかり砂糖を加えます。これが「エス・テ・マニス(Es Teh Manis)」で、氷をたっぷり入れた甘いアイスティーは暑さを和らげる定番ドリンクのひとつ。キンキンに冷えた上に甘味も強いため、疲れた身体を素早くリフレッシュさせる効果を感じる人が多いようです。
インドネシア料理は、サンバル(唐辛子ソース)に代表されるように、辛味を強調した料理が数多く存在します。唐辛子やスパイスをふんだんに使い、舌が「辛い!」と悲鳴を上げるほど刺激的なものも少なくありません。
そんな刺激的な食事の合間や後に、甘いお茶を飲むと辛味の余韻をやわらげ、口の中をさっぱりとリセットしてくれる効果があります。インドネシアの家庭料理では食事の際、必ず甘いお茶がテーブルに並ぶことが多く、家族全員が自然に辛い料理と甘いお茶を組み合わせて楽しみます。
インドネシアで一般的に消費される茶葉は、ジャワ島やスマトラ島、スラウェシ島など各地域で生産されています。これらの地域の茶園は標高の高い山岳地帯から低地まで多岐にわたりますが、総じてしっかりとしたコクや苦味があるのが特徴。特に紅茶をベースにしたお茶は、独特の渋みが強く感じられる場合が多いです。
こうした渋みや苦味を飲みやすくするために、自然と砂糖を加える習慣が生まれました。お茶本来の豊かな香りと濃厚な風味をしっかりと楽しみつつ、砂糖の甘味がほどよくマイルドにしてくれるというわけです。日本でも、濃い味の緑茶や抹茶に甘味を加えた和菓子を合わせるスタイルがあるように、渋さと甘さのバランスを楽しむ文化が定着しているのがインドネシアなのです。
実は、インドネシアは世界有数の砂糖生産国の一つでもあります。特にジャワ島ではプランテーション(大規模農園)が数多く見られ、安価で豊富な砂糖が国内に流通してきました。これによって、庶民の間でも砂糖が手軽に使える環境が整い、甘いお茶が一気に普及したという歴史的経緯があります。
かつてのオランダ植民地時代には、コーヒーやスパイスと並んで砂糖が大きな輸出品だったこともあり、今でも国内の各地で砂糖生産が盛んに行われています。安定的な供給と価格の安さが、甘いお茶を広める助けとなったのは言うまでもありません。
さらに、インドネシア人の食事スタイルにおいて、砂糖を使う機会はお茶だけにとどまりません。伝統的なお菓子やデザート、屋台で売られるドリンクにも砂糖がふんだんに使われるため、砂糖の需要が高い状態が続いてきたのです。そうした背景もあって、甘いお茶は日常生活の至るところに溶け込んでいます。
インドネシアのお茶が甘い理由は、単に「砂糖を入れた方がおいしいから」というだけではありません。気候・歴史・文化・食生活・経済といった多面的な要素が組み合わさり、甘いお茶文化を支えています。
私自身は甘いお茶が苦手なので、インドネシアではいつも「テ・タワール」を注文しています。とはいえ、現地の人にとっては、砂糖を加えた甘いお茶がまさに“普通”の感覚です。注文しても「本当に砂糖なしでいいの?」と聞かれることもしばしば。それだけ甘いお茶が生活に深く根ざしているということなのです。最初はその甘さに驚くかもしれませんが、南国の暑さやスパイシーな料理を考慮すれば、その甘さがいかに合理的で愛されるものであるかに気づくことでしょう。