【インドネシア首都移転】トランスミグラシ政策から考え大きな壁がある
著しい経済発展を遂げ、インドネシアの中心となっている首都ジャカルタは、今や人口約1000万人、周辺の首都圏には3000万人が在住する世界最大級の都市です。
一方で、インドネシアの首都をジャカルタからカリマンタン島に移転する計画が発表され日本のメディアでも大きな話題になりました。
しかし、ジャワ島ジャカルタ一極集中が問題となったのは70年以上前のことです。
今回の首都移転の計画、移転理由について深堀します。
ジャカルタから首都移転
インドネシアのジョコウィ大統領は2019年8月16日に年次教書演説で、現在の首都ジャカルタをカリマンタン島に移転する方針を初めて正式に表明しました。
カリマンタン島は、ボルネオ島とも呼ばれ、インドネシアの中心に位置しています。カリマンタン島は手つかずの自然が多く残っていますので、環境保護活動家らは、首都移転によって森林破壊や環境汚染が進むという懸念の声が上がっているのも事実です。
首都移転計画
首都移転は2021年から建設に着手して、2024年に政府一部機能や議会の移転を開始する予定です。
ジョコウィ大統領によると、首都をジャカルタからカリマンタン島に移転する費用は466兆ルピア(約3兆7000億円、2019年度国家予算比で約19%)となる見通しで、そのうち19%を政府が拠出し、残りは官民連携事業と民間投資でまかなう計画となっています。
完全な首都移転はインドネシア独立100年となる2045年を目指すと言われています。
新首都は、政治の中心となり、経済は引き続きジャカルタが中心になる見通しです。
そのため、首都移転に伴いジャカルタがすぐに影響がでるとは考えにくいです。
首都移転の理由
交通渋滞
1つ目は、交通渋滞です。近郊都市を含めたジャカルタ首都圏「ジャポデタベック」には現在3100万人もの人が生活しています。ジャカルタの交通渋滞は世界で一番ひどく、「ジャカルタの住人は、生涯のうち10年を交通渋滞に費やす」と言われるほどです。ジャカルタ首都圏での渋滞による経済損失は、年間10兆ルピア、日本円にして約8500億円に上ると試算しています。
経済格差
2つ目の理由はジャワ島とその他の島の間で経済格差をこれ以上広げないためです。
ジャカルタのあるジャワ島では総人口2億6千万人の57%が生活しているのに比べ、カリマンタン島は僅か7%。島間での経済格差が広がっています。
ジャカルタに一極集中した現状を打開し、インドネシアを全体的に発展させるという狙いがあります。
海面上昇と地盤沈下
3つ目は海面上昇と地盤沈下です。
2050年までにジャカルタ北部の95%は海に沈むという試算が出ています。ジャカルタの一部地域では、10年間で最大25cmも地盤が沈下していて、このままではジャカルタはいずれ水没すると言われています。
地盤沈下は、地下水の汲み上げと水をリサイクルできていないことが原因とされています。海面上昇はジャカルタに限った話ではなく、気候変動により世界中の海水面が上昇しています。
トランスミグラシは以前から
首都移転について、カリマンタンの環境保全はもちろん大切だが、ジャカルタの置かれている状況は非常に深刻なため、首都移転はせざるを得ないとの意見が多いと聞きます。しかし、財政面を含め本当に首都移転ができるのか、と疑問視している意見も多く、政府がジャカルタの根本の問題解決から目を背ける可能性が高いということが言われています。
トランスミグラシ政策は、過密地域であるジャワ島から、低密度地域のパプア、カリマンタン、スマトラ、スラウェシ各島へ恒久的な人口を移動する政策です。目的は、ジャワ島における過密を減らし、飢餓から貧しい労働者に職を与え、各島の天然資源開発を行うところにあります。
インドネシア独立以降トランスミグラシ政策は70年以上前から行われており、現在まで移住した人口は、スマトラ島が1550万人、カリマンタンに260万人、パプアに100万人など約2000万人が移住したと言われています。
だた、元々住んでいた人々が、ジャワ文化が入る事に抵抗し、キリスト教が多数派の地域にイスラム教徒が入ることで争いがおきる事態もありました。トランスミグラシに批判的な意見としては、必要最低限の生活でできない貧困者を移住させるのに莫大なお金と資源を使い、移住先の環境破壊を起こし、元々いた住民生活を脅かす事であるということです。
まとめ
新首都予定となるカリマンタン島はインドネシアの中でも非常に自然災害が少ない地域です。ただ首都移転については、これから幾重にもなる難題に取り組まなければなりませんし、ジョコウィ大統領はあと4年あまりの任期で終了してしまうため、次の大統領がこの首都移転を推進するかは疑問です。今までのトランスミグラシ政策でも色々な問題を抱えてきました。
当分の間は、ジャカルタがインドネシア経済の中核を担い続けるでしょう。これからの首都移転に伴い、環境保護とどのように平行して新首都を設立していくのか、また、ジャカルタ一極集中の問題解決に向けてどう取り組むのか注目する必要があります。