「YOSHINOYA」
日本で馴染みの看板がジャカルタ市内にも増えています。
もともと、日本食は世界的に人気のある料理です。
インドネシア市民も日本の味を愛している人が多くなりました。
現在は、寿司、天ぷら、ラーメン、うどん等、様々な日本食がインドネシアで食べる事ができますが、インドネシアで一番成功している日系飲食企業はどこだろうと考えた時、私は間違いなく「吉野家」だと確信しています。
「はやい・うまい・やすい」が代名詞の有名牛丼チェーン店、吉野家。
「JAPANS NO.1 Beef Bowl 100% U.S. BEEF」として、ジャカルタを中心に吉野家ブランドの浸透が進んで順調に成長を続けています。
吉野家の海外進出の状況は、まず1975年のアメリカ進出からスタートしました。
その後、1987年に台湾、1991年に中国(香港)、1993年にインドネシア、そして1997年にはシンガポールへと拡大していきます。
しかし1990年代後半に起きたアジア経済危機の影響で、1998年インドネシアから一旦撤退した経験がありますが、12年後の2010年にインドネシアへの再進出を決断しました。
マルチラサ・ヌサンタラとフランチャイズ契約を結び、ジャカルタの中心部に立つ最高級クラスのショッピングモールであるグランド・インドネシアの3階に大型の店舗を構え、二度目のインドネシア進出を果たしました。
吉野家のIR情報によれば吉野家インドネシアの店舗数は、2020年10月の時点で125店となっています。2016年の時点では50店舗だったので、わずか5年あまりで2.5倍まで増えたという計算になります。
インドネシア人に人気な最もスタンダードな牛丼「オリジナル」の価格はレギュラーサイズで40,909ルピア。
それより大きなラージサイズで48,181ルピアです。日本円にして約300円から360円ほど。
これは日本人にとっては低価格に思えますが、現地インドネシアで考えるとそこまで安いとは言えない値段ですが、インドネシアの吉野家はインドネシア人ばかりです。
ジャカルタの吉野家に入ると、日本人はあまりいなく、インドネシア人の家族や友達がファミレス感覚で利用しているような感じでした。
インドネシアでのキャッチコピーは”Japan’s No.1 Beef Bowl” 日本でNo.1の牛丼と謳っています。
吉野家の場合、米や野菜など食材は原則的に現地調達するものの、牛肉は米国からの輸入で牛丼の調理法はどの国も全て同じ方法をとっているようです。インドネシアの吉野家は国民の大多数を占めるイスラム教徒に配慮して、牛丼のたれはインドネシア向けの生産ラインを別途設け、イスラム教徒が摂取可能というハラル認証を取得しました。
日本の定番の牛丼と同じものがインドネシアでは「オリジナル」と言います。味は、本来の日本の味を尊重しつつも、やはりインドネシア人の好みに合わせてやや甘めに仕上がっています。
インドネシアの吉野家は、日本と違って様々な牛丼メニューがあります。
必ずどの国でも「牛丼」は販売しているものの、各国の風土や文化、嗜好に合わせ、それぞれのメニュー開発は独自で行っていますのでインドネシアオリジナルを試すという楽しみがあります。
インドネシアでは、現地的な味付け(濃い)の焼肉牛丼や黒胡椒牛丼、クリーミー牛丼や、エッグマヨ牛丼、クリスピーほうれん草牛丼などインドネシア独自のメニューが存在します。
サイドメニューも豊富で、鶏の唐揚げ、シュウマイ、エビフライ、エビカツなどがあります。
インドネシア人は一般的に日本人と比較すると味は濃いめでスパイスの効いたものを好み、フライドチキンに代表される揚げ物の人気が高いです。
食材の輸入が先進国と比較するとまだ難しいため現地調達率が高い事も要因です。
インドネシアに行ったら現地の吉野家でオリジナルメニューを探してみる。これも、一つの楽しみと言えるかもしれません。
日本とは、メニューがかなり異なります。
牛丼の上に「サンバル」と呼ばれるインドネシアの香辛料が乗せられているものや、鶏の唐揚げがセットになったものなどが特徴です。
サンバルが乗った牛丼は、程よい辛さが現地インドネシア人に好かれそうな味だと感じました。サンバルと組み合わせて食べることで一気にインドネシアの風味が加わるのがポイントです。
しかし、1口食べてみると、味は日本の牛丼とほとんど同じ。気軽に食べられ、どこか懐かしい味がします。
日本と同じメニューではなく、現地インドネシア人の好みに合わせた、辛味が強く味が濃いメニューが多いと感じました。「日本の味をインドネシア人好みにアレンジしたメニュー」が勝因だと言えるでしょう。
インドネシアではフォークとスプーンでご飯を食べる文化ですが、ヒジャブを着用するようなイスラム教のインドネシア人女性が、箸を使って牛丼を食べているのを見ると、ちょっと感動します。日本の牛丼文化が、インドネシア市民にしっかり受け入れられていると思いました。
インドネシアの吉野家は、店内は清掃が行き届いていて、清潔でした。衛生面は問題なさそうです。スタッフの服装や身だしなみも整っていたので、安心して食べられそうです。
またスタッフのサービスレベルも高かったので、しっかり教育されているようでした。
日本の「吉野家」といえば、「早い、安い、うまい」のキャッチフレーズの様に、作業着を着た肉体労働者の男性、サラリーマンなどが仕事中や仕事帰りに素早くリーズナブルに食事を済ませられ、働く人の強い味方というイメージがあります。地域によっては「家族連れで行くところではない」という先入観を持たれてしまっている部分もあります。
ところがインドネシアの吉野家は店内に作業着姿の男はひとりとしていません。
富裕層のための店であり、「豊かな暮らしぶりの家族が行くレストラン」なのです。
ジャカルタにある吉野家の店舗の多くはショッピングモールの中にあります。それもグランド・インドネシアやスナヤン・シティといった、アッパークラスを対象にしたショッピングモールの中にあり、吉野家は「アッパークラスのレストラン」となっています。
インドネシアのアッパークラスは、日本の中途半端な金持ちよりも遥かに豊かです。
週末になると、メイドを連れた家族客がショッピングモールに押し寄せます。
そしてモールのレストランコーナーで、「今日はどこで食べようか?」と相談を始めるとそこへ、オレンジ色の看板と白抜きの「YOSHINOYA」という文字が飛び込んできます。今日のランチは吉野家にしよう!のんびり牛丼でも食べた後、買い物をして家族や友達と休日を過ごすのが、アッパークラスの楽しみ方です。
インドネシアの吉野家は郊外店とモール内店の二種類があります。
インドネシアの吉野家のモール内型店舗は年々増えていますので、狙っていかなくても、偶然行ったモールに吉野家がある、ということが増えています。
インドネシアの店舗で出される牛丼は、日本とまったく一緒です。
面白いことに、どんぶりのデザインも同じ、我々日本人に馴染みのある、あのデザインです。
基本、インドネシアの吉野家店舗はカウンター席が一切ないテーブル席です。
普通に家族や友達と一緒でも吉野家に入ります。店内は広々としたテーブル席で構成されていますので吉野家はファミリーレストランなのです。
インドネシア人は、どんなことでも必ず家族か友人と一緒に行動します。休日にひとりでショッピングをする、長期休暇中にひとり旅をするということはまずしません。もしそれをすれば、どうして独りなのかと周囲から心配されてしまうくらいです。
吉野家はインドネシア人の行動パターンを把握していたからこそ、現地での事業拡大に成功しました。日本のような独りで食べる「早くて安い」という売り出し方ではなく、「ちょっとした贅沢感」を感じさせる点が、吉野屋の人気を知らしめた要因ではないでしょうか。
日系進出企業=自動車産業・インフラ関連企業というイメージが強かったですが、今後は飲食・サービス関連がインドネシアでの出店攻勢を強めていくでしょう。
日本の外食産業の今後、そして、これからのアジアの成長を考えれば、この市場での成功は、企業の成長と存続には必須の課題です。
GDPがある基準に到達すると、「食の多様化」という現象が発生します。
東南アジアは日本よりも「米文化圏」です。市民の生活水準が底上げされ、伝統的なメニューではないものにも手を出せる余裕が出てきました。
「食の多様化」に追従できるだけのバリエーションが、日本料理にはあり、日本食ブームの牽引役が吉野家の牛丼であったということなのでしょう。
今後日本の人口減も踏まえれば、国内での市場の飽和は目に見えています。そういった意味での外食産業の海外展開は、ますます加速していくことでしょう。インドネシアの吉野家は、日本食が海外進出するうえで参考にすべきビジネスモデルとして大いに注目されています。吉野家には、それだけ強い期待と準備をもって進出した意気込みが伝わってきます。